マルハバン(アラビア語で「こんちには」)!今回は支援地ヨルダンよりこのブログをお送りしています。ジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成と皆様からの募金で2014年より実施してきた、ヨルダン北部の都市イルビドとザルカでの教育支援事業もまもなく4年目に入ろうとしています。
シリア難民の子どもたちの補習授業を訪れると、先生の問いかけが終わらないうちにたくさんの手が上がり、算数の答えを黒板に書いたり、アラビア語の本を音読したりと実に活発な授業風景を見ることができました。子どもたちの邪魔にならないように息をひそめて見ていた私も、思わず発表ごとに大きな拍手を送ってしまいました。
先生たちも、子どもたちが楽しく学ぶことができるよう、授業に様々な工夫を施していました。風船の中にクイズ用紙が入っていて、それを割りながら今日学んだことのまとめをしたり、ボールや体を使ったアクティビティを取り入れたりと、子どもたちも夢中で取り組んでいました。
こんな補習授業の風景を見ていると、ふと一瞬忘れてしまいそうなりますが、ヨルダンに住むシリア難民の子どもたちを取り巻く環境は、子どもたちが安心できる環境とは言えません。シリア危機の長期化にともなって、ヨルダンの現地コミュニティでは地元経済の疲弊や、公共サービスの逼迫(ひっぱく)などからヨルダン人とシリア難民の間に軋轢が生まれ始めています。また公立学校では、難民児童の増加に伴い、午前・午後の二部制を導入しても1クラス70人を超える教室もあります。
このような状況の中、過酷な紛争を逃れてきたシリア難民の子どもたちの多くが心理社会的なサポートを必要としていますが、十分なケアがなされないまま見過ごされているのが実情です。またシリア人であることを理由に、通学途中などでいじめや暴力にあうケースも増えています。紛争下のシリアを逃れた後も、子どもたちは新たな不条理や暴力にさらされ続けています。
この事実に対して抱く想いはとてもシンプルです。「シリアの様々な苦難を乗り越えてきた子どもたちが、これ以上の不条理や暴力に晒されることなく、子どもらしく健やかに成長してほしい―。」
しかし、ニュースや新聞を目にするたびに『難民問題』はとてつもなく漠然としていて、彼らのために一体自分は何ができるのかと思いを巡らすときに、どこから何を考えたらいいのかその入り口すら探すのが難しいと感じます。『難民問題』にはさまざまな視点や切り口があり、そして数字として表れるたくさんの『難民』の情報にしばしば圧倒されてしまいます。
そんな折、モーメンの話を聞きました。モーメンはワールド・ビジョン・ジャパンがザルカで実施している補習授業に通う12歳のヨルダン人の男の子です。補習授業に通い始めたばかりの頃の彼は、シリア人の子どもたちに対してとても攻撃的な生徒でした。とにかくシリア人の子どもたちを受け入れない、そんな彼に補習授業のソーシャルアドバイザーのサレフ先生は彼にお互いを尊重し合って助け合うことの大切さを話しました。
「今はシリア人の子たちも僕らと同じで、お互いに尊重し合うことが大切なんだってわかる。」
彼は今、ノートや本などみんなが必要なものが全員に行き渡るよう、率先して気を配るようなリーダーになっています。モーメンの変化が教えてくれること―。それは「難民」を一括りにして考えるのではなく、その一人ひとりが自分と同じように家族がいたり、同じように大切にしているものがあったり、同じように必要としているものがあったりするのだという視点をもつことの大切さです。数字の向こう側に思いを巡らすこと、それこそが『難民問題』をより自分の身近に引き寄せ、自分にできる第一歩を踏み出すことにつながるのではないでしょうか。
※ワールド・ビジョンのブログ(英語)で、モーメンのストーリーを読むことができます。
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この記事を書いた人
- 東京外国語大学外国語学部ペルシア語専攻を卒業後、一般企業勤務。その後英国、イースト・アングリア大学大学院教育開発コースで緊急期における教育などを学び卒業。2016年9月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。ヨルダンにおけるシリア難民支援事業、アフガニスタンへの物資支援、WFP(国連世界食糧計画)の食料支援事業を経て、現在ヨルダン・イラクにおける教育支援・子どもの保護事業を担当。
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