【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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しんどくてつらい仕事を、私が続ける理由~世界難民の日によせて②~

算数のプリントと一緒に

算数のプリントと一緒に

「見て!今日は満点だった!」
と嬉しそうにこちらにやってきた女の子は、算数のプリントを見せてくれた。Very goodと先生に書いてもらったプリントには、キラキラの星のシールが貼ってある。良かったねぇ、とニコニコしていたら、写真をせがまれて記念に一枚撮った。

ほかの子も、自分のペースでプリントを解き終え、先生に採点してもらっている。中には足し算が苦手な子もいて、先生は分かるまで、何度も何度も、足し算を教えていた。

補習教室では、学校を終えた(または始まる前)の子どもたちがやってきて、算数、英語、アラビア語を勉強している。毎日、熱心に通ってくる子どもたちの多くは、シリアから逃れてきた子どもたちと、貧しい環境にあるヨルダン人の子どもたちだ。

紛争が泥沼化しているシリアは、今や国民の半分が避難民となる、異常事態を迎えている。避難民のうち約3割は国外へ避難し、残りの人々は国内にとどまり日々を送っている。ヨルダンもシリアからの難民を受け入れており、ワールド・ビジョン・ジャパンは、ヨルダン国内でシリア難民、またヨルダン人への活動を行っている。

ヨルダンには、登録しているだけでも、6月時点で、約63万人の人々が避難民として生活しており、そのうち約34%が、就学年齢にある子どもたちだ。つまり20万人を超える子どもたちが、学校に通うべきなのだ。
この数が意味していることは、ヨルダンが今教育の緊急事態にあるということだ。

補習授業の子どもたち

補習授業の子どもたち

20万人の子どもたちが学校に通うべきであるが、それらの子どもたちが通えるだけの学校数がまずない。そのためヨルダンの教育省は、学校を午前と午後の2部制にして、ヨルダン人、シリア難民の子どもたちを受け入れている。授業が少なくなって、学校で楽しく遊ぶ時間も早退して減ってしまう。先生も、それだけの人数の子どもの一人ひとりに目をかけることは難しく、自然、学校の授業についてこれない子どもたちが増えている。

せっかく学校に通うことができても、学校の授業についていけないと、学校へ行くやる気もなくなるし、それをサポートする環境がなければ、子どもたちは学校に魅力を感じなくなってしまう。

学校に行かない(行けない)ということは、実は非常に深刻な問題である。以前ブログでも書いたが、紛争、緊急時だから、ということで教育を受けないと、長期間勉強のブランクが空くことになる。また教育を受けないと将来自分の国に戻ったときや、将来仕事に就くときなど、貧困に身をおかざるを得なくなる。さらに、人とのふれあい(特に同世代の友達)が極端に少なくなるため、社会的に成熟するためのスキルを得ることが難しくなる。

私たちが提供している補習授業は、子どもたち一人ひとりが、ワクワクして学校に来ることができるように、という目的で行われている。また、レクリエーション活動では、子どもたちが遊びを通して互いを知り、自由に表現する場を提供している。

どんな環境にいても子どもたちは、立ち上がろうとする。でも、立ち上がれないときも、もちろんある。それも彼らに非はまったくない、紛争という出来事で。
そういう子どもをみると、「心が痛む」以外の言葉が見つからない。

何ができるのだろうと、あがくけれども、結局彼らの気持ちを100%理解することは、青二才の私には不可能であると思う。彼らは私の想像以上に過酷なものを見、経験している。
でもめぐり合わせで、私と彼らは、ヨルダンというところに、ともに生きていた時間がある。ともに笑い、ともに共有した時間があるから、私はそれでも彼らに何かをしたいと思う。

たまに、「しんどくてつらい仕事なのに、なぜ続けるのか」といわれることがあるが、それは多分、そこに生きる人たちのことを知ったからだと思う。

確かにしんどくて辛くて、どうしてこの仕事をしているんだろう、と自問することもたまにある。今ここでしんどい思いをしても、何か誰かの役に立つのか、分からないこともある。
でも、多分私は、知ったことの責任を取りたいと思っているから、あがくのだと思う。

この仕事を始めたのも、日々ニュースで読んで、人から話を聞いて、テレビで見て、知ったから、何かをしたいと思ったのが出発点だ。その後このような職業にめぐり合って、現場に行くことができて、遠かった世界が近くなった。だから多分続けていけたのだと思う。

算数のプリントが全部正解だった、サッカーでシュートが決まった、歌をみんなの前で歌えた。小さな子どもたちの「今日はこれができた」「明日はこれがしたい」、そういう想いを聞いて、一緒に笑えることを、私はとても幸せに思う。

この記事を書いた人

國吉美紗プログラム・オフィサー
イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学にて政治学部卒業。
大学在学中にWFP国連世界食糧計画にてインターン。
2010年9月より支援事業部 緊急人道支援課(旧 海外事業部 緊急人道支援課)ジュニア・プログラム・オフィサーとして勤務。2012年9月よりプログラム・オフィサーとして勤務。2016年7月退団。
趣味:読書、映画鑑賞、ダイビング
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