【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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地図から放り出された、その先に

日本で新年度のスタートといえば4月1日ですが、ワールド・ビジョンは世界各国のパートナーシップ全体で10月1日に新しい年度がスタートします。

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)により、大きく世界が変化した2020年度。支援現場での活動はもちろん、日本の私たちも自身の生活様式と働き方もガラリと変える必要に迫られた1年間でした。

思い返せば、昨年末「 Into the Unknown 未知の世界へ 地図から踏み出す」というタイトルで、ワールド・ビジョンのスピリットを紹介するブログを書きました。まさか、その数カ月後に「コロナ禍」という地図のない未知の世界に放り出されることになるとは知らず。

2021年度が始まるにあたり、2020年度に直面したチャレンジを振り返ってみます。

1.在宅勤務へ移行できるか
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)には2018年から段階的に在宅勤務のテスト運用を始めていたものの、実際の利用者は限定的でした(みんなオフィスが好きなのかな笑)。でも2月頃からWJのオフィスがある東京でコロナの感染者数が拡大。「感染しない。そして感染を拡げない」ため、部署や業務内容にかかわらず、全スタッフが在宅勤務できる環境を整える必要が出てきました。

今や懐かしい、事務所でのミーティング風景

今や懐かしい、事務所でのミーティング風景

2.コロナでも。コロナだからこそ、ニーズはそこに。
コロナによって世界中に激震が走りました。とくに途上国の貧困に苦しむ人々、紛争から逃れてきた難民・避難民の方々への影響は甚大です。ワールド・ビジョンは、そういう時に必要な支援が届けられる組織でありたいと願い活動してきました。私たちには緊急支援の長い歴史と実績が、そして失敗と学びがあります。けれど今回の支援はいつもと少し「勝手が違い」ました。

その代表例が、感染防止のため簡単に現場に入れなかったことです。ウィルスは絶対に持ち込んではならない。同時にスタッフの安全も守る必要がありました。未知の感染症のプレッシャーに直面しながら、感染予防をして工夫しながら、時にデジタルモバイル技術を駆使しての支援活動は、いつもとは全く違う緊張感と工夫と調整が必要でした。

3.活動資金となる寄付を集め続けられるか
困難な状況にある世界の子どもたちに支援を届ける「サポート・オフィス」として、活動資金となる寄付を集め続けられるかどうかは切実な問題です。日本もコロナの脅威に晒され、感染予防と経済活動をどう両立するかが日々議論されています。「日本が大変な中、海外の支援どころではない」― 今がいかに厳しい状況かを表す切実な声は、2011年の東日本大震災のあとにもよく聞かれたことを思い出しました。

「未曽有の」とか「前例のない」「先行き不透明」と言った言葉が行き交う中、おそらく多くの方がそうであるように私も、これからどうなるんだろうとか、今の活動をどうしたら続けていけるのだろうとか、団体の運営は、スタッフは大丈夫だろうか、と不安と焦りが大きかった(大きい)です。

「感謝」を数える

けれど一方で、実は、コロナによってもたらされた感謝な出来事もいくつもありました。

1.スタッフのITリテラシーが急激に向上
WVJのオフィスで働くスタッフ(わたしを含め…というより、特にワタクシ)のITリテラシーが飛躍的に向上しました。Zoom、Teams、VPN、リモートデスクトップは、もはや「なんだか怖そうなモノ」ではなく、「頼れる友」となりました。

この「頼れる友」のお陰で、在宅勤務になったスタッフと毎日お昼休み前の15分間、顔をあわせて思いを分かち合う時間を持つことができています(詳しくは長下部スタッフのブログを参照)。

5月にZoomで開催した「緊急オンライン報告会 COVID-19x難民支援」に500名以上の方から参加申込があったことも驚きでした。当日はヨルダンに駐在するスタッフからロックダウン直後の様子など、生々しいほどの現場報告ができました。海外駐在スタッフとオンラインでつなぐライブイベントを自前で開催できるとは…と、隔世の感がありました。

ヨルダン駐在の松﨑スタッフと二人でオンライン報告会に登壇した筆者

ヨルダン駐在の松﨑スタッフと二人でオンライン報告会に登壇した筆者

2.これからの働き方を考えるきっかけができた
WVJでは、2月下旬から一部のスタッフが在宅勤務を開始しました。4月に緊急事態宣言が出されたタイミングでは、ほぼ全スタッフの在宅勤務ができるようシステムや制度を整えることができました。緊急事態宣言の解除後も、約7割のスタッフが在宅勤務を続けています(フィジカルディスタンスを保つため、最大3割のスタッフがシフト制でオフィスに出勤しています)。海外への出張も全面的に見合わせ、事業調整もオンラインでのやりとりでなんとかカバーしています。

今は、単に在宅で仕事ができるというだけではなく、オフィスで働いていた時と変わらず柔軟な発想をもって担当業務に100%コミットすることができるか。成果を上げることができるか、を考えています。そしてリモートであっても、どうすればメンバー同士がお互いを刺激し、新しいアイディアや価値を創り出すコミュニケーションをとることができるか。これからはこうした点が取り組んでいきたいチャレンジです。

画面越しのミーテイングでも、アイデアは出しあえる!

画面越しのミーテイングでも、アイデアは出しあえる!

そんなこともあり、8月にWVJスタッフの今後の働き方がどうあるべきかを検討する、タスクフォース・チームを立ち上げました。12月にチームからどんな提案が出てくるか、楽しみです。自分たちの働き方を、自分たちで考える。正解のない難しさはありますが、万一失敗したら学んで立ち戻ってやり直せばよい、むしろ「こんな経験ができる機会は滅多にない」と前向きにとらえていく団体でありたいと願っています。

3.こんな時だからこそと、多くのご寄付をお寄せいただいた
WVJでは、3月から新型コロナウイルス感染症から子どもたちを守るための緊急募金の受付を開始しました。前に書いたとおり、前例のない緊急人道支援です。日々刻々と大きくなるニーズに応え、活動は70か国に及び、WV史上最大規模の支援となっています。そしてこちらの募金には、私たちが当初目標に設定していた額を大きく上回るご寄付をお寄せいただきました。日本も大変なときなのに、この温かいご寄付をくださった方の多くは、すでにチャイルド・スポンサーとして継続的にご支援をくださっている皆さまでした。

「日本もコロナで大変だけれど、自分はきれいな水で手を洗うこともマスクをすることもできる。元から厳しい環境で生きている子どもたちのため、少しでもできることをしたい」

そのような思いから、世界の子どもたちのためにとってくださったアクションを、本当に心強く感じ、励まされました。

4.チャイルド・スポンサーシップの強みを再認識
今回のコロナ対応 ― さまざまなチャレンジがある中で、WVがいち早く現場で支援が展開できた最大の理由は、チャイルド・スポンサーシップです。WVにはすでにチャイルド・スポンサーシップを通して活動をしている地域的な基盤があり、政府やコミュニティとの信頼関係があります。現地で「エッセンシャル・ワーカー(社会の機能を維持するために最前線に立つ職業に就く人)」として信頼され、必要な活動を迅速に行うことができています。チャイルド・スポンサーシップの大きな強みを再認識しました。

そうした基盤、信頼関係は、チャイルド・スポンサーとして継続的にご支援くださっている皆さまの温かいお気持ちによって支えられています。この場をお借りして、改めてチャイルド・スポンサーの皆さまにお礼を申し上げます。

まだ見たことのない景色

コロナは、残念ながら今も収束の目途が立たず、感染拡大が続いています。
地図から放り出された私たちが見る景色がこの先どう変化していくのか、分かりません。

2021年度が始まる新しい節目に2020年度を振り返ってみると、多くのチャレンジがあった一方で、想像していなかった感謝なこともたくさんありました。そしてそこに、思いをともにすることができる頼もしい仲間の存在があることに気づかされます。

世界各国の同僚たちの勇気ある姿、情熱的でプロフェッショナルな姿勢を見るにつけ、心が奮い立ちます。様々な形で活動を支えてくださるご支援者の皆さまも、この地図のない世界をともに歩んでくださる仲間です。

わたしは一人ではない。
まだ見たことのない景色を一緒に見る仲間を、神さまが与えてくださっている。
きっと、その景色は美しい。
そう信じて、一日、また一日と、歩みを進めていきたいと思います。

この記事を書いた人

木内 真理子WVJ理事・事務局長WVJ理事・事務局長
青山学院大学を卒業後、国際協力銀行(JBIC)前身のOECFに入社。途中英国LSE(社会政策学)、オックスフォード大(開発経済学)での修士号取得をはさみ、アフリカ、インドネシア、フィリピンにおいて円借款業務を担当。母になったことを契機に転職。東京大学にて気候変動、環境、貧困など21世紀の課題に対応するSustainability Scienceの研究教育拠点形成に従事。「現場に戻ろう」をキーワードに08年10月よりWVJに勤務。アフリカ、中南米、ウズベキスタンを担当。2011年5月より、東日本緊急復興支援部長。2013年4月より副事務局長。2017年4月より事務局長。2020年4月より現職。東京工業大学非常勤講師、JICA 事業評価外部有識者委員、JANIC理事、日本NPOセンター理事、タケダいのちとくらし再生プログラム助成事業選考委員
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