【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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難民キャンプで感じた「やりがい」と「現実」

支援事業部の新口です。5月28日から2週間の日程でバングラデシュを訪れてきました。

ワールド・ビジョンに入団して約2年2カ月。新型コロナウイルス感染症の流行により、担当事業の現場への訪問が全くできない日々が続いていましたが、念願が叶っての出張でした。

バングラデシュでは、私が担当しているロヒンギャ難民支援事業の事業管理、事業実施後の状況確認、新規事業の形成、現地政府や国際機関との調整などのため、南東部にあるコックスバザール県に滞在しました。

コックスバザールには全長125キロにおよぶ世界最長の天然の砂浜があり、国内屈指の観光地でもあります

コックスバザールには全長125キロにおよぶ世界最長の天然の砂浜があり、国内屈指の観光地でもあります

前職、前々職では現地に駐在したり、支援対象者であるいわゆる「受益者」の方たちと直接コミュニケーションを取ったりすることが多くありました。一方、ワールド・ビジョンに入団してからは、新型コロナの影響で、常に遠隔での事業管理やコミュニケーションを余儀なくされました。

加えて、バングラデシュを担当することも、難民支援事業を担当することも初めてだった私にとって、様々な場面で困難を感じることがありました。現場の様子や国や地域ごとに異なる現地の人々の持つ雰囲気など、駐在や出張ができれば直感的に感じられるものを「想像力」で補わなければならず、自身の業務や決定において確信を持つことが難しい日々でもありました。

難民キャンプの様子

難民キャンプの様子

2週間の出張はとても充実したものでした。

これまでさまざまな事業を一緒に担当してきた現地スタッフとの念願の対面を実現することができたり、新しい事業の形成のために現地スタッフとテーブルを囲んで有意義な議論を行うことができました。事業現場では受益者であるロヒンギャ難民の方たちとの対話を通じて、事業の効果を感じられたことも嬉しかったです。

特にワールド・ビジョンが2019年から実施しているジェンダーに基づく暴力(Gender-based Violence:GBV)の防止と対応のための事業については、事業での継続的な啓発活動や研修などを通じて人々の意識が大きく変わってきている様子を知ることができました。GBVの防止と対応、そしてGBV被害を受けてしまったサバイバーの人たちをサポートするためのコミュニティが徐々に形成されていることが確認でき、「悩みながらの2年2カ月の中でも、自分は現地に何かを届けることができていたんだな」と、やりがいを感じることができました。

ロヒンギャ難民キャンプ内にワールド・ビジョンが設置したGBV啓発センターで、男の子に向けた啓発セッションに参加し、聞き取りを行う筆者

ロヒンギャ難民キャンプ内にワールド・ビジョンが設置したGBV啓発センターで、男の子に向けた啓発セッションに参加し、聞き取りを行う筆者

これまで担当した様々な事業の成果を確認したり、受益者の方たちから肯定的なフィードバックやコメントをもらって、新たな支援事業の形成のためにとても前向きな気持ちで難民キャンプ内を歩いているときでした。

1人のロヒンギャの青年が私の方に歩み寄ってきて、とても流暢な英語で、「僕たちのために教育の支援をして欲しい」と話しかけてきました。私はその青年に対して、現在実施している教育支援事業やUNICEFと協力して開始した新たなカリキュラムでの教育支援の取り組みについて説明しました。

青年は「それは知っているし、ワールド・ビジョンや支援をしてくれている団体にはとても感謝している。でもそれだけでは僕たちは自分の夢を叶えることはできない。僕は医師になりたい。でも、難民キャンプでは医師になるための勉強はできない。勉強することができても医師になれる機会はないし、そもそも仕事につくことも許されていない。多くの大人が僕や小さな子どもたちに将来の夢は何かと聞いてくる。皆、医師や教師、エンジニアなどの夢は持っている。でもここではその夢は実現できないと力強い眼差しで私を見つめながら話してくれました。

彼の言葉は難民キャンプでの「現実」でした。
難民キャンプ内での教育は基礎的なものに限定されており、高等教育の実施は認められておらず、またロヒンギャの人々の就労は禁止されています。
難民支援の現場ではこのような制限が様々あり、支援団体である私たちNGOは、状況改善のために受入国等へのアドボカシーを行いつつも、決められた枠組みや制限のなかでできることをやらざるを得ないというのが現状です。

難民を巡っては、複数の「国」がそれぞれに異なる立場で関与しています。まず、難民となってしまった人の母国であり、本来は彼らを守るべき立場にある「国」。バングラデシュのように難民を受け入れている「国」。そして難民となってしまった人々を支援する「国」。難民問題は人道問題であると同時に、極めて政治的・外交的な問題でもあります。その解決のためには政治的・外交的解決が不可欠であるという現実を、改めて目の前に突き付けられた瞬間でもありました。

「自分はこの人たちのために『何か』できている」と思っているのは、ただの自己満足であって、ある種のエゴなのではないか。そう強く感じ、充実感とは相反する強い無力感を覚えながら、出張の行程を終え日本への帰路につきました。

日本に帰国した私は久しぶりにとある本を手に取りました。『聞き書 緒方貞子回顧録』(※1)です。

第8代国連難民高等弁務官として約10年間、クルド難民危機、旧ユーゴスラビアの紛争、ルワンダ難民危機など、様々な危機的状況に直面しながら難民支援の指揮を取った緒方さんは、同著書において自身の判断基準、そして信条として「人間を大事にする」ということを挙げられ、このように語っています。

「『人の命を助けること』。これに尽きます。生きていさえすれば、彼らには次のチャンスが生まれるのですから」

また同著書の中で、緒方さんはこのようにも語っています。

「見てしまったからには、何かをしないとならないでしょう? したくなるでしょう? 理屈ではないのです。自分に何ができるのか。できることに限りはあるけれど、できることから始めてみよう。そう思ってずっと対応を試みてきました」

緒方さんのこの信条は、ワールド・ビジョンの創設者であるボブ・ピアスの「すべての人々に”何もかも”はできなくとも、誰かに”何か”はできる」という言葉に通じるものがあると思います。

ワールド・ビジョン創設者 ボブ・ピアス

ワールド・ビジョン創設者 ボブ・ピアス

難民キャンプでのロヒンギャの青年との出会い、そして彼の語った言葉は、私に長期化する難民キャンプでの避難生活の現実を突きつけるものでありました。それは同時に、国際協力に携わりたいと思う私に対して、「一人の人間として、自分は何をすべきか、何ができるのか」という問いとして投げかれられたものでもありました。

自分に何ができるのか。
これは私にとって一生の問いになると思います。ただ、今の自分にできること、そしてすべきこととして明白なのは、最も脆弱な立場にある人たちに寄り添い、耳を傾け、そして行動に移すことです。
今回の出張で感じたこと、そして難民キャンプでのロヒンギャの青年との出会いを忘れず、困難な立場にある人たちを常に中心に据え、考え、そして行動できるよう、これからも励みたいと思います。

ロヒンギャの子どもたちにキャンプでの生活について聞き取りを行う筆者

ロヒンギャの子どもたちにキャンプでの生活について聞き取りを行う筆者

※1:緒方貞子著、野林健・納家政嗣編(2015年)『聞き書 緒方貞子回顧録』岩波書店


 

ワールド・ビジョン・ジャパンでは「危機にある子どもたちのための募金」を承っております。新口スタッフが出張したロヒンギャ難民キャンプで支援を届けるため、皆さまのご協力をお願いいたします。


この記事を書いた人

新口慎太郎支援事業部 プログラム・コーディネーター
早稲田大学社会科学部卒、英国バーミンガム大学国際協調と安全保障修士課程修了。2016年から3年間、在カンボジア日本国大使館において保健医療や地雷・不発弾撤去の分野を中心とした草の根型ODA案件の形成と実施監理を担当。帰国後、国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所において人材育成事業に携わり、津波防災に関わる女性のリーダーシップ研修や核軍縮・不拡散トレーニングプログラムなどを担当。
2020年4月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。現在、ロヒンギャ難民支援をはじめとする南アジアおよび中南米における事業を担当。
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