シリア難民と受け入れ地域のヨルダン人の子どもたちの教育支援のためにヨルダンに赴任して3年と7ヵ月が経ちました。
これまでの時間があっという間だったと感じる反面、いくら支援を続けても学習や情緒に問題を抱えている子どもたちの数が多すぎて自分が無力だと感じ、途方に暮れた時もありました。そんな時、私の光となってくれたのは、支援事業で子どもたちのためにともに働いてくれる先生方でした。
その中でもイルビド県のアル・ハーンサという公立学校の女性校長アジュルニ先生は、われわれスタッフから見ても一段と輝いて見える存在です。
アジュルニ先生は、シリア難民受け入れのために二部制となっている公立学校の、
優に1,000人を超える子どもたちの名前や置かれている状況を把握しています。
また、二部制となったために週6日も勤務しなければならないにもかかわらず、文句も言わずに黙々と仕事をこなしています。
そしてアジュルニ先生はシリアから難民が流入し始めた初期の頃から、積極的にシリア難民の子どもたちを学校に受け入れてきた校長先生の一人でもあります。今でもこの学校に通うシリア難民の子どもたちの割合は、全校児童の半数近くを占めています。
2013年ごろに多くのシリア難民の子どもたちが編入を求めて学校にやってきたとき、アジュルニ先生は地域の教育局に状況を説明しながら無我夢中で一人ひとりの受け入れの手続きを行いました。
ヨルダンの多くの学校はシリア紛争発生前から教室の数が不足しており過密状態にあるため、空きがないことを理由にシリア難民の編入を断る校長先生もいましたが、アジュルニ先生は、勉強したいとやってくる子どもたちはすべて受け入れました。
なぜなら戦火を逃れてボロボロな心でやってきた子ども、親を失ってしまった子どもや病気の子どもたちを見て、いてもたってもいられなかったそうです。
同じ人間として、受け入れを拒否することは考えられなかったそうです。
とはいえ、この現状に苦い思いも抱いているそうです。
メディアや国際社会の関心はシリア難民の子どもたちにあてられがちですが、
ヨルダンの子どもたちも難民の流入によって学校が半日だけの授業になるなど、大きな影響を受けています。
本当はヨルダン人の子どもたちももっと気にかけたいのだと言っています。
ところで、アジュルニ先生に子どもの頃どんな女の子だったか聞いてみたことがあります。
彼女は学校が大好きで、夕方家に帰るのが名残惜しくて、いつまでも学校に残っていたいと毎日思っていたそうです。
どうしてそんなに学校が好きだったのか尋ねたら、「う~ん、私の周りにはとても素敵な先生たちが多かったから」
そう答えてくれました。
アジュルニ先生は子どもの頃に多くの先生から光をもらったから、大人になった今、教師となって光り輝いているのだと納得しました。
***
10月15日にヨルダンとシリアの国境が2年ぶりに再開され、シリアへと帰還するシリア人がちらほら出てきました。
事業を実施している学校を訪問した際にも、シリアへと帰還する難民家族がアジュルニ先生と、勉強を教えてくれた先生方にお別れを言っている場面に遭遇しました。
先生方が子どもたちを抱擁し、口々に「元気で頑張ってね」と励ましている姿を見て、赤の他人の私も胸が熱くなってしまいました。
子どもたちはシリアに帰ってもしばらくは厳しい生活を強いられると思います。
でもシリアへと帰還した子どもたちは、きっとヨルダンで通った学校の先生たちのことを一生忘れないでしょう。
またヨルダンの子どもたちもヨルダンの地で、先生方が放った光を胸に秘め成長していくことと思います。
大人から見ると目立たないように「黒子」に徹している先生方も、きっと子どもたちの心の中には「輝く光」となっていつまでも輝き続けることでしょう。
そしてその光を見て育った子どもたちが大人になったとき、次の世代を導く光となって輝き始める。
光って実はキャンドルのともしびが別のキャンドルへと受け継がれていくように、人々の心に脈々と灯りつづけるのかもしれないなぁと思いました。
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この記事を書いた人
- 大学卒業後、一般企業に勤務。その後大学院に進学し、修了後はNGOからアフガニスタンの国連児童基金(ユニセフ)への出向、在アフガニスタン日本大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所等で勤務。2014年11月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。2015年3月からヨルダン駐在。
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