アドボカシー・チームの松山です。しばらく前に、難民に関するイベントに参加したとき、登壇された支援関係者から会場に、次の言葉を投げかけられました。
「彼らは、なぜ難民なのでしょう。私たちは、なぜ難民ではないのでしょう」
私はその問いかけを聞きながら、「自分が避難しなくてはならない状況になったら、どこへ行くだろう、どの国が受け入れてくれるだろう」と考えていました。
複雑に拡がる「難民問題」と、新たな支援の枠組みづくり
現在、紛争や暴力などから逃れている人々は、世界に6,560万人いると言われます。そのうち、国内避難民は過半数の4,030万人。国外に逃れた難民の84%は、トルコやパキスタン、レバノンやイランなどの中・低所得国に庇護を求めています。
難民となる人の数が増えているだけでなく、難民状態の長期化も指摘されていて、2015年時点で世界に32ある「長期化している難民状態(Protracted Refugee Situations)」の7割が20年を超えています。それに伴って何年も、場合によっては何十年も避難生活を送らざるを得ない人々も多くいます。
このような難民人口の増加や事態の長期化を受けて、国際社会ではいま、難民を支援するための新たな枠組みを作ろうとしています。基盤となっているのは、2016年9月の国連総会で採択された「難民と移民に関するニューヨーク宣言」です。
なぜ難民と移民が一つの宣言に含まれているかというと、移民の中にも、貧困や食糧難、自然災害などにより「移動を強いられる移民」も数多くいて、このような状況下の大規模な人の移動においては、難民も移民も、同様の危険や困難にさらされがちだからです。たとえば、強いられた移動においては難民も移民も、移動の過程で人身取引されたり、お金が尽きて労働搾取に陥るなどの暴力に遭いやすいほか、家族が離れ離れになったり、いずれの国にも法的に守られず公共サービスも受けられない…といった苦難に直面しやすいのです。
そして、大規模な移動に伴う問題もその原因も、「難民・移民が多く生まれた国だけ」あるいは「難民・移民がたどり着いた国だけ」で対処できることではありません。そのため、「難民や移民の直面しがちな問題にグローバルに対応しよう」という事で、この宣言が出されました。
現在、「ニューヨーク宣言」に基づいて、「難民に関するグローバル・コンパクト」と「移民に関するグローバル・コンパクト」という2つの国際枠組みが策定過程にあります。「難民グローバル・コンパクト」(英語のGlobal Compact for Refugeesの頭文字をとって「GCR」とも言います)については、今年の2月から7月にかけて毎月一度、ジュネーブにて公式協議が行われています。公式協議では、UNHCR(難民高等弁務官事務所)が取りまとめるGCRの草案について、各国政府が交渉をおこない、NGOや国際機関等のステークホルダーによる発案も踏まえつつ、草案の修正作業が進められています。
難民グローバル・コンパクトが出来ると、どうなるのでしょうか? まだGCRは策定途中で、内容は定まっていませんが、大きな方向性としては、難民を集中的に受け入れている国々の負担を減らし、「難民の保護にかかる責任と負担を共有する」ことが確認されています。
具体的には、2019年に第一回を開催する国際会合「グローバル難民フォーラム」などを通じて必要な資金を出し合うことや、各国の中央政府だけでなく多様な主体者―難民を受け入れている自治体や、NGOなどの市民社会、民間企業、そして何よりも難民当事者—が難民の保護施策の立案や実施に関われるようにすること、第三国定住を促進すること、そして、難民を生み出す根本原因への働きかけを行うことを盛り込む方向で、調整が続けられています。
確定したGCRは、今年8月のUNHCR年間報告書に盛り込まれ、翌月9月の国連総会に提出される予定です。GCRは、法的強制力は持ちませんが、合意後は日本においても、より積極的で広範な協力をしていくこととなります。
知る。出かける。その次は?
「難民問題」が世界各地で複雑に拡がっていること、国際社会で協働のため枠組みが作られようとしていることを見てきましたが、個人としては何ができるでしょうか。一様の答えはないという意味で、これはなかなか難しい問いです。私自身も普段はNGOで活動している訳ですが、いち個人として何ができるのかと自問すると、正直、答えに詰まってしまいます。
それでも、まずやろうと思うのは、なるべく個別具体的に、人の置かれた状況を知ることです。「〇〇問題」という大きなくくりでは、どこから取り組んだらよいか途方に暮れてしまうところもありますが、その時に、逃げることを余儀なくされた個人を思い、どうしたらその人達の状況が少しでもよくなるか、具体的に考え積み重ねることの先に、事態の改善があるのではと考えるからです。
最近報じられただけでも、たとえば、シリア危機が発生した2011年以降に来日し難民申請をしたものの、不認定を受けたシリア人のヨセフ・ジュディさんの裁判。また、先週70周年を迎えたイスラエル建国に際して、土地を追われたパレスチナ難民の現状。難民をめぐって様々なことが国内外で起きています。これらについて、普段より少し丁寧に調べてみることで、自分の日常の延長線上で、何か出来ることにつながるかもしれません。
「さらに深く考えたい」という方には、来月開かれるシンポジウムを紹介させてください。
ワールド・ビジョン・ジャパンでは2018年3月より、難民・移民の子どもたちに対する暴力をなくすためのキャンペーン「Take Back Future」 を立ち上げていますが、その一環として、6月2日(土)に東京都内でシンポジウム を開催します。難民の人々にとって、暴力から離れて日常生活を取り戻すためにも、そして将来への展望を取り戻していくうえでも教育が重要であることを踏まえ、「難民と教育」を中心テーマとしながら国際機関や大学、学生団体などの登壇者による報告が行われる予定です。詳細・お申込みはこちら>>
最後に、ワールド・ビジョンが支援活動を通じて出会った、シャイマさんのインタビューを少し伝えたいと思います。シリア人難民であるシャイマさん(12歳)は今、ヨルダンの難民キャンプで生活していて、Take Back Futureキャンペーンの「顔」にもなってくれています。
「私たちが村にいた時、ミサイルや爆弾が落ちてきました。周りの家が全部壊されました。学校の裏手でも爆発が起きたので、その時から学校には行けなくなりました。怪我した人が叫び声をあげているのが聞こえました。
私はお父さんに、「ヨルダンに行こう」と言いました。みんな、ヨルダンの方がずっと良いと言っていたから。それで私たちは行くことにしました。徒歩で72キロほど歩かなくてはなりませんでした。朝早くから歩いて、昼間はすごく暑かった。移動の途中で、私の妹は日射病になり、死んでしまいました。
お母さんとは、妹の死について話せないと感じています。お母さんはとても悲しんでいるから、お母さんを泣かせたくないのです。すごく悲しいです。私の家族はとても仲良かったのに、突然、散り散りになってしまいました。できることなら時間を巻き戻したいけれど、私にできることは何もないから。
避難先では、朝5時か6時に起きて、水の張った桶を家の中に入れます。すごく冷たいので、火にかけて温めます。それから宿題をチェックして、学校に行きます。いろんな事を沢山学べるので、学校はとても好きです。いま私は6年生で、丁寧に教えてもらっています。今日は算数の授業があって、割り算を学びました。とても楽しいです」
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ワールド・ビジョン・ジャパンは、故郷を追われた人々への物資支援とともに、子どもたちへの補習授業による教育支援を行っています。今、手を差し伸べることで、子どもの未来は変わります。難民支援のための募金にご協力ください。
募金は、紛争により避難生活を送るなど困難な環境にいるシリア・南スーダンの人々のために役立てられます。詳しくはこちら>>
支援事業部 アドボカシー・チーム
松山 晶
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【関連ページ】
・世界の問題と子どもたち:世界の難民危機と子どもたち
・ワールド・ビジョン・ジャパンの緊急人道支援
・TAKE BACK FUTURE キャンペーン
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この記事を書いた人
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貧困や紛争の原因について声をあげ、市民社会や政府による行動を通じて問題解決を目指していくアドボカシー。
他のNGOをはじめいろいろな関係者と連携しながら活動を行っています。ロビイングやキャンペーンにかける想い。ぜひお読みください!
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