2013年11月にフィリピン中部を襲った超大型台風ハイヤン。当時、日本のニュースでも繰り返しその被害が伝えられていました。自分の子どもと同じ年くらいの幼い子どもたちが、台風で破壊し尽された被災地で泣いている映像をテレビで何度も目にし、とにかく何かしたくてワールド・ビジョンのウェブサイトでフィリピン台風支援の募金ボタンを思わずクリックしたあの頃、私はひとりのチャイルド・スポンサーでした。
その後、不思議な縁でワールド・ビジョンのスタッフとして働くことになり、さらに今年1月には、あの時テレビで見たフィリピンの被災地に出張する機会が与えられました。特別な思いを持って赴いたフィリピンのかつての被災地で、私はジョアンナちゃんという11歳の女の子に出会いました。
ジョアンナちゃんは、台風ハイヤンによる被害が特に大きかった地域の一つであるサマール島に住んでいます。台風で家も家具も衣服もすべて失いましたが、両親と2人の妹と一緒になんとか生き延びました。台風の後は、廃材を集めて建てた小屋にしばらく数家族一緒に住んでいました。
その後、ワールド・ビジョンの支援で新しい家に住めるようになり、食料や学用品の支援も受けて、家族は徐々に生活を立て直していきました。ジョアンナちゃんも明るい表情を見せるようになっていました。
ところが、新しい一歩を踏み出した矢先、悲しい出来事がジョアンナちゃんと家族を襲いました。弟を出産する際に、お母さんが亡くなってしまったのです。2015年のことでした。急にお母さんを失い、お父さんは茫然自失。近くに住むおばあさんが赤ちゃんの世話や家事を手伝ってくれ、何とか生活している状態でした。そんな中、ジョアンナちゃんはなぜか一番元気そうで、妹たちの面倒も積極的に見ていたそうです。そんな健気なジョアンナちゃんの姿に、一家を訪問したワールド・ビジョンのスタッフも思わず涙したと言います。
まだ11年しか生きていないのに、たくさんの辛い出来事を経験してきたジョアンナちゃん。実際に会ってみると、細くて小柄ですが、芯の強さと人への思いやりを持ったとても素敵な女の子でした。日本からお客さんが来て緊張していたのもあると思いますが、控えめで多くは話さない女の子だな、というのが第一印象でした。でも、持って行ったシャボン玉や風船で妹や近所の子どもたちと一緒に遊んだひと時は、子どもらしい笑顔をたくさん見せてくれました。
しばらく一緒に遊ぶ中で、11歳とは思えないジョアンナちゃんの気遣いを感じました。風船でバレーボールのような遊びをしたのですが、ジョアンナちゃんは相手が受け止めやすい高さに風船を打ったり、皆が順番に風船を打てるように配慮していろいろな方向に打ったり、さり気なく気を遣ってくれるのです。また、自分がシャボン玉で遊んでいても、妹が遊びたがるとすぐに譲ってあげていました。
最後に、ジョアンナちゃんの優しさに胸打たれるエピソードがありました。ワールド・ビジョンのスタッフが、今回取材*に協力してくれたジョアンナちゃんに特別に缶ジュースをあげたところ、ジョアンナちゃんは半分だけ飲み、残りが入った缶をずっと手に持っていたそうです。もういらないのかなと思って、「捨てようか?」と聞くと、「妹にあげたいから持って帰る」と答えたのだそうです。
日雇いの仕事をしているお父さんの収入は不安定で、ご飯が十分に食べられない日もあると話していたジョアンナちゃん。缶ジュースなどきっと滅多に飲めないはずなのに、全部自分で飲んでしまわずに、妹のために持って帰ろうをする、その優しさは一体どうやって育まれたのだろうかと、深く考えさせられました。2年前に亡くなったお母さんが、こころを込めて丁寧に育ててこられた結果なのかもしれません。
ジョアンナちゃんと幼い子どもたちを残して、若くして命を絶たれてしまったお母さん。どれほど無念だったでしょう。でも、お母さんの子育ての尊い功績は、ジョアンナちゃんや妹たちの中に見て取ることができました。もし天国のお母さんに会えるなら、ジョアンナちゃんのような優しい子どもを育てる秘訣を聞いてみたい、そして、「あなたの娘さんはこんなに優しい女の子に育っていますよ」と伝えてあげたいと思いました。
*ジョアンナちゃんは、ワールド・ビジョン・ジャパンの親善大使 酒井美紀さんにご協力いただいたテレビ番組に出演しています。是非ご覧ください。
マーケティング第2部
スポンサーサービス課
石坂 明日香
・チャイルド・スポンサーシップとは
・フィリピン共和国:子どもたちはこんな支援地域で暮らしています
・「フィリピン、災害からの復興~ジョアンナちゃんのストーリー~」
この記事を書いた人
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