幼い時の記憶がどのぐらい残っているかは、ずいぶん個人差があるらしい。私は、なぜか小学生以下の時の記憶がたくさん残っている。今でも覚えているのは、小学校1年生の朝礼のときのことだ。体育館でみんなで歌った歌に「ビューティフル・ネーム」という歌があり、サビのフレーズを繰り返し歌った。
実は、その年1979年は、「児童権利宣言」(59年採択)の20周年を記念して国連が「国際児童年」と定めた年で、この歌は、ゴダイゴというバンドによる「国際児童年」のテーマ曲だった。この年、世界中が子どもの問題を考え、解決のために力を尽くしていこうとする動きがまとまり、「子どもの権利条約」を現実のものとするための作業部会が国連に設置された。当時の私には、そんな複雑なことはわかりようもなかったが、学校の先生が、「子どもは大切にされなければならないんですよ」というメッセージを発信していたのを覚えている。
子どもは大人と異なる存在で、「子どもだから」認められるべき権利がある、という考えは、今でこそ当たり前だが、世界で共有されるようになったのは20世紀のことであり、比較的新しい概念といえる。戦後間もない48年にすべての人は平等であるとした「世界人権宣言」を経て、59年に「児童権利宣言」が生まれた。ここでうたわれた精神を、宣言に終わらせることなく、実際に効力のある権利条約にしていくための動きが始まったのが、79年の「国際児童年」だったのである。
≪一人ひとりの「個」 認める社会が第一歩≫
「国際児童年」から10年の準備期間を経た1989年、「子どもの権利条約」が誕生した。2014年現在、194の国と地域が締結しており、人権条約としては歴史上最も多くの参加を得ている。誕生から25年で国際的に子どもを大切な存在と位置づけることに成功し、たくさんの子どもたちの命と成長を守ることに大きく貢献してきた。子どもの権利を守ることが大人にとって義務と責任を伴うものとなった。
2000年に国連で合意されたミレニアム開発目標では、15年までに、すべての子どもが男女の区別なく初等教育を全過程終了できるようにすることや、5歳未満児の死亡率を1990年と比べて3分の1に減少させることを目標に掲げた。これにより、もし90年と同じ乳幼児死亡率のままだったら命を落としていたに違いない9000万人の幼い命が助かり、90年には53%だった後発開発途上国の初等教育就学率が、2011年には81%にまで改善。
しかし、ミレニアム開発目標は達成期限まであと1年という今、物理的、社会的に手を差し伸べることが難しい環境にある子どもたちを、相変わらず取り残しているとも指摘される。達成期限の15年以後に国際社会が共有する目標となる「ポスト2015開発アジェンダ」への課題とされている。
ワールド・ビジョンは、第二次世界大戦後間もない1950年から60年以上にわたって、子どもたちのために活動してきた。「ポスト2015開発アジェンダ」によって世界が共有する目標が“最も弱い立場にある子どもたち”を救うことにつながることを願い、目標制定に関わる国連や各国関係者に対して活発な働きかけを行っている。
世界の子どもたちのうち、出生登録されているのは3分の2にすぎないといわれている。出生登録がされないと、予防接種や学校の就学登録など、子どもが享受できるはずの社会サービスの対象になることができない。出生登録がされない子どもたちの多くは、開発途上国の中でも貧しい農村部に住んでいたり、紛争国で生きている。
「ビューティフル・ネーム」という歌は、ひとりずつの子どもに、ひとつの名前があることが素晴らしいと歌っている。「一人ひとりに名前があることなんて当たり前なのに、不思議な歌だなあ」と幼心に思った記憶がある。
しかし、子どもが一人ひとり異なる名前によって、ユニークな個の存在として社会から認知されることが大事、というメッセージを含んでいたのだろう。社会に存在が認められること、それが権利が守られるための第一歩。だが、それが当たり前ではない子どもたちがいる。
25歳になった「子どもの権利条約」の仕事は、これからも続く。
(コミュニケーション課 課長代理 浅野恵子)
この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの浅野スタッフが執筆し、2014年10月9日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。
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