約1年ぶりに現場に訪れた私を、コミュニティの子どもとお母さんたちは同じ場所で迎えてくれました。
1年前は、家と仕事を失いながらも、とつとつと静かに状況を話してくれたお母さんと子どもたち。やしの葉や竹で急ごしらえした小さな掘っ立て小屋に、複数の家族がぎゅうぎゅうになりながら身を寄せていました。
今は、家の再建が始まり、新しい家ができつつあります。
しっかりした土台と柱、屋根。柱は強風に耐えられるよう三角形に組んであります。壁には窓(ガラスはありませんが)があり、採光も十分です。
「これが私の家ですよー (“This is my new house!”)」
といって満面の笑顔で中を案内してくれる子どもたちとお母さん。畑作業中のお父さんも出てきました。
仕事はまだ不安定だし、完全な復興には程遠い状況です。そもそも台風前から貧困に苦しんでいたコミュニティです。台風前より豊かで安定した生活を目指さなければなりません。これからのことを考えたらまだ不安でいっぱいのはずです。
それでも、新しい家は、人々の希望の形です。
私も嬉しくて、気がついたら「よい家ができてよかったですね。これからよいことがたくさんありますように」と言いながら、お母さんたちの手を握ってブンブン振っていました。
そのとき、お母さんたちの目がキラキラしているのに気づきました。
涙です。
1年前は、あんなに厳しい状況だったのに涙はありませんでした。
あまり見つめては失礼な気がして、またもらい泣きしてしまいそうな気もして、気がつかないふりをして子どもたちと遊び、笑って手を振ってその場を離れました。
それからずっと、「今になってあふれる涙の意味はなんだろう」とずっと考えていました。
帰って家族に話すと子どもが、
「1年前は泣いてる余裕もなかったってことじゃない?それだけ大変だったってことだよね…」とぼそり。
そうだよなぁ。
今になって、台風で失ったものや1年間の苦労と辛かったことを思い出したのかもしれません。
あるいは、最大の懸念だった家ができて少しほっとしたのかもしれません。
それでも私には、あの涙にはこの1年を乗り越えられたことへ感謝と誇りも交じっていたように思います。それだけ、お母さんたちの顔は晴れやかで、にこやかで、ちょっぴり恥ずかしげでした。
1年前も、フィリピン人ってたくましいなぁ、と思いましたが、今回ますます、フィリピンのお母さんたちの静かな強さと優しさを見たような気がしました。
すごいなぁ。
ちょっと、一緒に泣いてもみたかったな。
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ワールド・ビジョンの2013年11月から1年間の支援をまとめた動画(英語)。家を再建するためのトレーニングの様子もご覧いただけます。
この記事を書いた人
- 青山学院大学を卒業後、国際協力銀行(JBIC)前身のOECFに入社。途中英国LSE(社会政策学)、オックスフォード大(開発経済学)での修士号取得をはさみ、アフリカ、インドネシア、フィリピンにおいて円借款業務を担当。母になったことを契機に転職。東京大学にて気候変動、環境、貧困など21世紀の課題に対応するSustainability Scienceの研究教育拠点形成に従事。「現場に戻ろう」をキーワードに08年10月よりWVJに勤務。アフリカ、中南米、ウズベキスタンを担当。2011年5月より、東日本緊急復興支援部長。2013年4月より副事務局長。2017年4月より事務局長。2020年4月より現職。青山学院大学非常勤講師、JICA 事業評価外部有識者委員、JANIC理事、日本NPOセンター副代表理事
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