【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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協働から生まれる広がり‐難民の子どもたちへの教育支援

ワールド・ビジョンに入って初めて担当したのは、シリア危機によって難民となったシリア人の子どもたち、そして受け入れ地域のヨルダン人の子どもたちへの支援事業でした。特に教育支援はとても思い入れのある事業で、子どもたちにもらった、活動中の絵や工作を今も大切に持っています。

2014年から約7年間にわたって、募金やジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成により、難民支援、とりわけ教育支援を保護者やコミュニティ、学校やヨルダンの教育局などと連携しながら継続できたことは本当に貴重な機会であったと感じています。この事業が継続していく中で、当時のチームの間では「本当に質の高い活動を提供できているのか、事業の成果を客観的に評価してよりよい事業にしたい、学びと教訓を抽出し、ほかの難民支援にも活かしたい」という想いがありました。

補習授業の様子

補習授業の様子

上智大学小松先生との協働-学術論文への挑戦

そんな想いから、緊急期の教育専門家である小松太郎先生との協働が始まったのは2018年。事業調査・評価にはじまり、活動への助言指導、調査結果を学会などで共同発表するなど、様々な協働をさせていただきました。今回、共同調査の結果をまとめた論文が学術誌に掲載されました。調査研究、論文の内容については上智大学からもプレスリリースされています。論文の執筆にあたっても、様々なご指導・ご助言をいただき導いてくださった小松先生には感謝に堪えません。

補習授業の教員たちの話を聞く小松先生

補習授業の教員たちの話を聞く小松先生

小松先生とのこれまでの協働:
上智大学との共同調査
学会での共同発表

事業の効果が明確になった喜び

論文では、学力測定やアンケート、インタビューを含む調査結果より、補習授業を通じたヨルダン人児童との交流により、シリア難民の子どもたちがより安心して学校で過ごせるようになったこと、両国籍の子どもたちのコミュニケーションが促進されたこと、安心して学べる補習授業の学習空間や補習教員による双方向的な学習方法によって、学力や学習意欲が向上したことなどが示されました。

現地スタッフや関係者とともに工夫と改善を重ねながら実施した事業が、難民の子どもたちの学びの継続に効果があったと明確に示されたことは、実務者である私たちにとっても大きな喜びと自信につながりました。現在もヨルダンの教育支援に携わる、長年事業をともにしてきた現地のスタッフ、そして事業を率いてきた歴代のプロジェクトマネージャーたちが新型コロナウイルス感染症による影響で困難極まりない時期も含め、きめ細やかに関係者と調整を行い尽力してくれたことに深く感謝しています。

現在もヨルダンの教育支援に携わる現地スタッフと当時のプロジェクトマネージャー渡邉スタッフ(左端が筆者)

ヨルダンの教育支援に携わる現地スタッフと当時のプロジェクトマネージャー渡邉(左から筆者、ルブナ、渡邉、アラー)

支援に終わらないNGOの役割-協働による広がりを作る

論文では、小松先生によるインタビューやアンケート調査の結果や、また同じく上智大学のガラーウィンジ山本研究員のシリア難民家庭訪問調査から得られた結果なども踏まえ、今後の指針として「難民の学習継続のためには、人道支援機関が長期的なビジョンのもとで教育支援に関与する必要がある」という示唆が与えられました。

ウクライナ、ガザ、スーダンなど世界各地での相次ぐ紛争の発生・激化・長期化に伴い、シリア危機やシリア難民についてメディアを通して知る機会は少なくなりました。一方で紛争地域から難民や避難民として家を追われる人たちは後を絶ちません。

一時的な緊急支援に終わらず、危機発生の段階から、難民として逃れた人たちと、不安定で流動的な状況をともに乗り越える、そして安心して暮らす未来を思い描けるようになるまで、ともに協働する覚悟とビジョンが支援者である私たちに求められています。今回小松先生や山本研究員と論文をまとめていきながら、よりよい支援を届けることだけでなく、現地政府や関係者を巻き込むこと、そして国内外のさまざまなアクターにも息の長い協働を求めていくこともNGOの重要な役割だと改めて認識しました。

そのためにも、事業成果を第三者に客観的に検証してもらい、事業効果の正当性を確認する、そして明らかになった成果や学び、示唆を、ほかの支援機関や政府など難民支援関わるアクター、そして活動を応援してくださる方々と共有するというサイクルが必要だと感じています。

難民の子どもたちのこと、そして彼らが抱えている課題に対して、より多くの人に知ってもらうことで、効果的な支援を拡張し、自分たちだけでは成しえない変革、難民の子どもたちが安心して学び、将来を生き生きと思い描ける未来への変革へとつなげたい。

そんなビジョンを心に描きながら、日々の支援事業を進めていきたいと思わされています。

事業地の子どもたちと筆者

事業地の子どもたちと筆者

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難民の子どもたちへの教育支援とその効果について学術誌に掲載されました
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この記事を書いた人

岩間 縁支援事業部 シニア・プログラム・コーディネーター
東京外国語大学外国語学部ペルシア語専攻を卒業後、一般企業勤務。その後英国、イースト・アングリア大学大学院教育開発コースで緊急期における教育などを学び卒業。2016年9月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。ヨルダンにおけるシリア難民支援事業、アフガニスタンへの物資支援、WFP(国連世界食糧計画)の食料支援事業を経て、現在ヨルダン・イラクにおける教育支援・子どもの保護事業を担当。
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