【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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「村のお母さんたちの役に立ちたい!」ある女性の決意

2017年11月、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)が支援している地域ヘルスワーカーの能力強化を通じた母子保健プログラムの視察のためインド中部を訪問した際に、マディヤ・プラデーシュ州サーガル県クライ地区に住むアーリアさん(仮名)という女性にお話を聞く機会がありました。そのときの会話をご紹介します。

■ インタビュアー:平田(WVJスタッフ)
■ インタビューを行った相手:WVの研修を受け、ピア・エデュケーター(同年代の仲間に知識や情報を伝え、行動変化を促す普及員)となったアーリアさん

インタビューに答えてくれたアーリアさん

インタビューに答えてくれたアーリアさん

■ アーリアさんとの出会い

アーリアさん学業は続けられなかったけど、結婚する前から母子保健の仕事に興味があったから、この春にピア・エデュケーターとしての選考に通った時は嬉しかったわ。

平田:いつからピア・エデュケーターとして活動しているのですか?

アーリアさん:2017年4月25日からよ。

具体的な日にちを記憶している様子に、この日が彼女にとってひとつの転機だったのではないかと察しました。

■ インド事業地域の課題とワールド・ビジョンの活動内容

本支援事業の地域ヘルスワーカーの能力強化を通じた母子保健プログラムは、武田薬品工業株式会社の支援を受けて、乳幼児死亡率の高い南アジア4カ国において5年間で1,400人の地域医療従事者(ヘルスワーカー)の能力を強化し、約50万人に保健医療に関する知識とサービスを提供することで、母子の「予防可能な死」を削減することを目標として実施している事業です。インド、ネパールバングラデシュ、アフガニスタンの4カ国で、2016年10月から5年間にわたって実施しています。

インドの事業地であるクライ地区は、東京都23区の約1.2倍という広大な平地に、20万人弱が暮らす行政地区です。見渡すかぎり地平線いっぱいに、シャルバティ種という良質な小麦や緑豆の畑が広がります。畑を横切る、未舗装のあぜ道の両脇には5~6mの高さに育ったミモザの木が植えられて、鮮やかな黄色の小さく丸い花が枝先に咲いています。その横には、甘酸っぱい香りの野生のグアバの実がなっている、のどかな田園風景です。

苗がまだ若いグラム畑。平野が続く地平線の先に山稜がうっすらと見える

苗がまだ若い緑豆畑

しかし、農地は少数の地主の所有となっており、ほとんどの住民は農作物の収穫からの恩恵を受けることはありません。毎朝日雇い労働者を乗せるトラックに拾ってもらう恩恵に預かることができれば、一日あたり400ルピー(約750円)のわずかな日当を得て、収穫期を迎えた畑を回って作業に従事しています。多くの住民の家に家財道具はほとんどなく、生活は質素です。電気・上下水道・ガスといったインフラが存在しない村も少なくありません。

クライ地区のほとんどの人々は社会的に弱い立場にあります。全国レベルの保健行政サービスの様々なしくみは存在しますが、末端まで機能していないことが大きな課題です。カースト制度(※)などの伝統的・歴史的な習慣が、保健行政サービスの適切な提供を阻む要因となっていること、そしてその影響は予想以上だと、現場の事業を担当するWVインドのスタッフも話してくれました。

カースト制度:インドの伝統的社会システム。極端な貧富の差を招くことがあり、職業の自由の原則になじまないとされ、現在は法律で禁止されている

インドで必ずお目にかかる、行く手を阻む牛の一軍。牛は神聖な生きもので、追い払うことは許されない。大きく澄んだ目と合うと、「そう急ぎなさんな」といわれている気がする

インドでよくお目にかかる、行く手を阻む牛の一軍。牛は神聖な生きもので、追い払うことは許されない。大きく澄んだ目と合うと、「そう急ぎなさんな」といわれている気がする

具体的な例としては、自分より低いカーストに属する世帯へはサービスを提供したがらない保健サービス従事者がいたり(個人の価値観からではなく、伝統に従順であるがゆえに)、低カーストの住民が多い村には定期的に予防接種が提供されなかったり、というケースがあります。

政府の取り組みにもかかわらず起きているこういった状況が、世帯間で保健サービスを享受する機会の隔たりを招いていますが、これを改善するためには、地域の住民が、自分たちが本来受けられるべき保健サービスについて理解をすることが最初の一歩であると、WVの地域開発事業の経験からは考えられています。

本事業によって採用・育成されるボランティアであるピア・エデュケーターは、ヘルスワーカーと地域の妊産婦や乳幼児を育てる家庭の橋渡しとして活躍しています。ほとんどが女性で、自身が育児中の母親であることもあります。教育、経験、そして自身の地域の保健サービスの改善に役立ちたいという意思を基準に選出されます。

ピア・エデュケーター自らが居住する村の妊産婦や小さな子どもがいる世帯を訪問し、保健に関する様々な知識をわかりやすく説明して回ります。こうして各世帯に知識を提供することで、住民たち自らが本来受けるべき保健サービスについて理解する、そしてそれにアクセスがなければピア・エデュケーターやWVを介して行政に求めてゆくことを目指しています。同時に、各世帯を訪問して得た村の人々の実態や保健関連データをWVに提供することで、WVが有意義な事業計画を立てるための補助をしています。

アーリヤさんが担当する村の子どもたちに話しかけるWVインドのスタッフ(右)

アーリアさんが担当する村の子どもたちに話しかけるWVインドのスタッフ(右)

ピア・エデュケーターには必要な知識を得るための研修の機会も与えられています。事業では期間中に合計200名を育成する計画で、これまでに約100名を選出し、育成を開始しました。

本事業ではこのほかにも、准看護助産師などの保健サービス従事者に対しても積極的な研修・啓発を行い、彼(女)らに寄り添い、業務で抱える個別課題を一緒に解決する活動を実施しています。

■ ピア・エデュケーターとしての決意

冒頭のインタビューに登場したアーリアさんは25歳です。事業地域であるクライ地区内から南東に50km離れたサーガル市の出身で、結婚して地区内に引っ越してきました。2児の母親で、夫は電気工事の作業員として他州に単身赴任をしているため、夫の両親らと共に留守をしています。

アーリアさん:夫は2,3カ月に一度、2週間ほど帰省するだけで、またすぐに仕事に戻ってしまうの。

と話してくれた顔はさみしそうです。それでもピア・エデュケーターとしての仕事について訊くと、表情がサッと変わり、きびきびと答えてくれます。

アーリアさん:私が担当する地域では、今妊婦は10人、乳幼児の母親は11人。このうち外に出てきて、保健についての話を聞いてくれるのは、まだ半分よ。

そして、WVがピア・エデュケーターのために作成した紙芝居形式の啓発教材を、鞄から出して見せてくれました。

アーリアさんお母さんたちにこういうものを見せながら、栄養のある食事や定期健診の重要性について、できるだけわかりやすく説明をするの。

平田この仕事での、あなたの目標は何でしょう?

アーリアさんこの村の妊産婦全員に、私の世帯訪問を受けてもらうこと。

迷うことないはっきりとした口調に、与えられた任務を全うしようと責任感を持ったアーリアさんの決意をうかがうことができました。

ピア・エデュケーターたちは事業期間中、WVの指導を受けながら活動を展開していきます。事業が終了しWVの支援が終わっても、またピア・エデュケーターという肩書があってもなくても、自らの地域の保健サービスの充実を目指して、ヘルスワーカーの補助をすることができるように育成することは、事業効果の持続という観点からも重要です。

ピア・エデュケーターたちと、一緒に啓発活動を実施するWVインドのスタッフ(オレンジのサリーを着た女性)

ピア・エデュケーターたちと、一緒に啓発活動を実施するWVインドのスタッフ(グレーのトレーナーを着た女性)

アーリアさんがピア・エデュケーターになってからもうすぐ1年です。彼女のように向学心があり任務に熱心な住民が選ばれ、活動を開始することができたことに感謝し、今後の事業の展開と成果に期待が高まる出会いとなりました。

マーケティング第1部
平田 優子

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この記事を書いた人

WVJ事務局
世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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