ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)では昨年10月、武田薬品工業株式会社さまのご支援を受け、南アジア4カ国(インド、バングラデシュ、ネパール、アフガニスタン)での母子保健プログラム支援事業を開始しました。支援地域のお母さんたちが安全に妊娠・出産できるように、また誕生した子どもたちが健やかに成長できるよう、5年間にわたって草の根レベルの母子保健に関わる人材育成・サービス強化に取り組み、地域全体の母子保健に関わるキャパシティの底上げを目指します。
今年1月、インドの支援地域であるマディヤ・プラデーシュ州サーガル県へ出張して来ました。ワールド・ビジョン・ジャパンの支援地域はこれまでインド南部が中心だったため、初めてのインド中部にやや緊張しながらデリーを経由し、マディヤ・プラデーシュ州の州都であるボパールに到着。そこから車で約4時間かけて、ようやくサーガル県に到着しました。
インドでは、地域住民に最も近い医療機関として、サブヘルスセンターと呼ばれる小規模な診療所が運営されています。このサブヘルスセンターには、准看護助産師(ANM)が1名常駐し、基礎的な医療サービス(予防接種、産前検診、薬の提供など)を提供することになっています。また、各村に配置されたASHA*ワーカーが連携しながら、妊産婦への啓発、世帯訪問などを実施することになっています。
*ASHA:Accredited Social Health Activistの略で、政府公認の社会保健活動家。
今回の出張では現状把握のため、支援地域内にある20カ所すべてのサブセンターを訪問しました。しかし驚いたことに、行くところ行くところ、閉鎖されているのです。結果として、准看護助産師(ANM)が常駐しているサブセンターは3カ所のみで、大半のサブセンターは月1回だけANMが訪問し、その時以外は閉鎖されているという状況でした。これまでインド国内はもちろん、南アジアを中心に色々な国の支援地域を訪問して来ましたが、ここまでの状況は初めてでした。
中でもショックだったのは、地域内での格差でした。ANMが常駐し、機能しているサブセンターは、いずれも幹線道路沿い、地域の中心部に位置しています。地域の外れに行けば行くほど、道路状況や、人々の生活環境は目に見えて厳しくなりますが、そういった地域はいずれも指定部族や指定カーストといった、インド社会の中で歴史的に被差別対象となってきた人々のコミュニティでした。当然、サブセンターは機能しておらず、ASHAワーカーによる活動もほとんど行われていません。地域の人々からは、「ANMを配置するよう行政に訴えているが、実現されない」という声が多く聞かれ、そもそもサブセンターがどのような機能を持っているのかを知らない人すらいました。
凸凹道を走る車に揺られながら、色々なことを考えさせられました。ただでさえ厳しい支援地域の中に存在する格差。しかもそれが、出自によっていること。享受している社会サービスの差。それが当然のように成立してしまう社会構造。考えれば考えるほど、問題の根深さが垣間見えるようでした。
そんなことを考えながら現地事務所に戻ると、現地スタッフたちが今後の活動計画について話し合っていました。彼らはコミュニティ・ヘルス・コーディネーター(CHC)というポジションで、基本的に支援地域内のコミュニティに住み込み、人々との関係を築きながら様々な活動を行う、一番のフロントラインに立って働くスタッフたちです。みんなインド中部/北部の出身ですが、家族とは離れて単身赴任。この事業に配属される前も、それぞれインド国内の別地域で、やはりCHCとして働いていました。
彼らが立てた活動計画を説明してくれましたが、その様子が、なんだかとても楽しそうで、これからの活動に対する高い期待とモチベーションが伝わってきました。この地域で働くのは全員初めてなので、知らない地域に飛び込み、ゼロから人々との関係を築いていくことになります。それ以外にも様々なチャレンジが予想されますが、そのような困難やチャレンジは、経験豊かな彼らは十分理解していると思います。その上で、きっとそれに勝る喜びがあるからこそ、CHCとしての働きを続けているのでしょう。
彼らの様子を見ながら、私も自分の持ち場で精一杯頑張らなければと改めて思い、力をもらいました。これから5年間、様々なことがあると思いますが、現地スタッフと苦労と喜びをともにしつつ、少しでも良い事業ができるよう、努力していきたいと思っています。
この記事を書いた人
- 恵泉女学園大学卒業後、2006年7月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。国内でのファンドレイジング、広報を担当した後、2013年4月より支援事業部スポンサーシップ事業課に所属。南アジア諸国での支援事業の監理を担当。2018年4月よりマーケティング第1部に所属。
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