【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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忘れることのない「名前」

アンドリュー・モーリー ワールド・ビジョン総裁/最高責任者

アンドリュー・モーリー
ワールド・ビジョン総裁/最高責任者

私が「飢餓問題」について考えるとき、忘れることのない「名前」を思い起こします

数年前、私はコンゴ民主共和国の北キヴ州を訪れました。そこは、長年、暴力に耐えてきた地域です。人手も物資も不足している聖ヨセフ病院の院長のイザベル先生が、私を集中治療室に案内してくれました。そこには1人だけ患者がいました。

その患者の名前はクリスチャンくん、生後6週間の新生児です。クリスチャンくんはたくさんの布に覆われたベッドに寝かされていました。保育器の代わりだと言うのです。

「まさか。そんな事があり得るのですか?」

私は信じられませんでした。この小さく弱った生まれたばかりの赤ちゃんは深刻な栄養不良状態だと、イザベル先生は教えてくれました。また、クリスチャンくんのお母さんは、クリスチャンくんの3人の兄弟姉妹に食事を与えるために家に帰っており、その3人も同じく深刻な栄養不良状態と先生は説明しました。そこで、私は聞きました。

「クリスチャンくんのために私たちに何ができるでしょうか?」
その問いに対するイザベル先生の返答を私は忘れることはできません。

「できることは何もありません。クリスチャンくんの内臓はもう機能を失っています」

今にも命が消えそうな子どもを目の前にして、何もできない無力感は、ほかの誰にも経験してほしくない辛いものでした。栄養不良に苦しむ3人の子どもたちのためにクリスチャンくんを置いて帰宅したお母さんは、どんな気持ちだったか、想像するだけで心が引き裂かれます。

その時、私に同行してくれていた安全担当のスタッフのジャン・マリーと私は、クリスチャンくんにできる限り近づき祈りを捧げました。最後に「アーメン」と、祈りに心を合わせたイザベル先生の声を今でも覚えています。

数日後、クリスチャンくんが亡くなったと報告がありました。
私は涙を抑えきれませんでした。
今も、思い出すだけで涙がこぼれます。

彼を救うために必要だったのは、食事です。それだけです。世界に十分な食糧がありながら、そんな事もできなかった国際社会は恥を知るべきです。

上腕計測バンドで栄養状態を確認する様子。赤色の太さは栄養状態が危険であることを示す(南スーダン)

それ以降、その地域の栄養不良の子どもたちを救うために、ワールド・ビジョンはイザベル先生と連携し、彼女の病院に基本的な物資、栄養価の高い重度の栄養不良の緊急治療食である「プランピーナッツ」、資金、技術を支援しています。

その成果として、イザベル先生は栄養不良で苦しんでいた子どもたち100人を救い、これからも最も厳しい場所で子どもたちを救い続けることを決意しています。地域唯一の病院とイザベル先生に必要だったのは、パートナーです。ワールド・ビジョンがそのパートナーになれたことをとても光栄に思います。

私たちワールド・ビジョンは、毎日、苦しみや痛み、涙を目の当たりにし、苦痛の叫びを聞き、心が引き裂かれています。

しかし、子どもたちやその家族を苦しみや悲しみから守りたい。
その想いと希望を持ち続け、今日も活動しています。

* * * * * * * * * *

アンドリュー・モーリーは2019年にワールド・ビジョン総裁/最高責任者に就任し、3万4,000人以上のスタッフとともに働き、ワールド・ビジョンの100カ国での活動に指導的役割を果たしています。

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