【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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本来の豊かさを取り戻すまで:イラクの食糧支援

8月の半ば、イラクのクルド人自治区アルビルまで出張する機会がありました。
初めてのイラクに感激したこと…
それは何と言ってもイラク料理のおいしさです!笑

「イラク料理」
どんなイメージがありますか?

まずご紹介したいのが、現地スタッフとランチで食べた「カバーブ」。肉の串焼きですが、単にお肉を串に刺して焼いたものではなく、羊肉のミンチにスパイスを混ぜ込んで、串に細長く巻きつけて焼きます。これに焼いたトマトと米が絶妙に合う!

みんな大好きカバーブ

みんな大好きカバーブ!

もう一つのお気に入りは、トマトやハーブで味を付けたごはんをブドウの葉っぱで巻いてスープで煮た「ドルマ」。香り豊かで柔らかいごはんとやさしいスープの繊細な味わいが、日本人の舌に合うこと間違いなしです!(今思うと、どれも学生時代に1年間過ごしたお隣イランの味に似ていて、思い出の味に感無量だったのかもしれません…)

デザートには、中にピスタチオがぎっしり入った「バクラワ」。あるオーストリア人のスタッフに、お茶にシュガーは?と聞くと、「ここに来てからつい食べ過ぎてしまって…今は砂糖断ちしてるの」とブラックティーをすすりながら、バクラワをおいしそうにつまんでいました。笑

ピスタチオがぎっしり!バックラーワ

ピスタチオがぎっしり!バックラーワ

そんな魅力的なイラクの食文化。その理由は、イラクの国土が持つ豊かさに他なりません。現在のイラクは、かのメソポタミア文明の栄えた地域で、ティグリス川とユーフラテス川という2つの大河から水の恵みを受け、古くから農業が営まれてきた歴史を持ちます。例えば西部では、リンゴや柑橘類などの果物や、ナツメヤシや小麦などの主産物、南部ではお米の栽培が盛んだったそうです。また河川流域では豊富な水で牧草がよく育ち、質のよい家畜が育つとされています。それに加えて2大大河やペルシア湾で獲れた魚まで!多彩な食材がそろいます。国土そのものの豊かさに加え、様々な文化が行き来し、取り込まれてきた歴史から、アラブやペルシア、インドなど多様なテイストが食にも文化にも表れています。

「イラクは何でもあるよ!食文化だけじゃなく、民族も言語も宗教も、本当に豊かな国なんだ」イラク人スタッフの一人は、ランチのメニューを紹介しながらそう話してくれました。

そんな豊かな国土と歴史を持つイラクは、常に紛争と隣り合わせの道を歩んできました

近代でいえば、1970年代のフセイン独裁政権からイラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争とその後の混迷・荒廃、武装勢力の台頭、そしてイラク政府軍による武装勢力掃討作戦。ワールド・ビジョンで働くイラク人スタッフに話を聞くと、誰しも必ず紛争の経験とそれにまつわる様々な思いを抱えていました。

「イラクには何でもある。ただ一つ、平和がないんだ」

イラク国内の難民キャンプ

イラク国内の避難民キャンプ

現在イラクは約300万人(出典:IOM 2017)の国内避難民を抱えています。その多くは北部のクルド人自治区で避難生活を送っています。武装勢力の支配地から逃れてきた人々は、文字通り身一つで家や故郷を後にしました。逃亡が見つかれば殺されてしまうからです。あるいは自宅や近隣の家が破壊され、持ち出せるものすらなく、移動を余儀なくされた人もいます。家族や友人を失った喪失感、そして破壊や殺戮を目の当たりにした心の傷を抱えながら、底知れぬ恐怖の中、子どもたちや家族の命を守るため必死の覚悟で避難してきた人々。その多くが、今、避難先で「貧困」という新たな問題に直面しています。

特に支援の手が届きにくい避難民キャンプの外に暮らす人々は、家賃が払えずに廃屋で暮らす、十分な食事ができず病気になる、教育費がまかなえず子どもたちが学校に行けない、親や親類を失い身寄りがなく途方に暮れる子どもたち、などどうすることもできない貧困に、今なお苦しんでいます。奪還された地域へ続々と帰還が進む一方で、住む家も学校も病院も仕事場も、あらゆる生活の基盤が破壊された特に被害の激しい地域から避難した人々は、帰ることもできず、終わりの見えない避難生活に大きな不安を抱いています。復興への道のりはまだまだ遠く、イラク国内では、まだ約1千万人の人々が何らかの人道支援を、そのうち約80万人が食糧支援(出典:WFP 2017)を必要としている状況です。

食糧支援の様子

食糧支援の様子

食糧支援の列に並ぶ人々

食糧支援の列に並ぶ人々

ワールド・ビジョンでは現在、モスルとその近郊から多くの人々が避難してきたドホーク州、ニネワ州のホスト・コミュニティで避難生活を送る人々に対し、米や豆、調味料などの食料の配布や、都市の利便性を活かした食糧バウチャーや現金給付といった地域市場を通じた食糧支援を行っています。辛い経験を抱えながら避難生活を送る人々が、安心して栄養のある食事を摂り、まずは体の健康から、そして徐々に心も回復していけるように…来る復興の時に向け、私たちは食糧支援を通じて、彼らの「今」を支えています。そしていつか、全てのイラクの子どもたちが本来のイラクの豊かさの中で、家族と多彩な料理の並ぶ食卓を囲み、今日学校であったことを話す、そんなふうに健やかに育っていける日が来るまで。この国の平和までの道のりを支え続けていきたいと強く感じています。

「水と食糧のための募金」にご協力いただくと、イラクの「今」、そして食から広がるイラクの「未来」への支援につながります。ぜひお力をお貸しください!

食糧の配給を受けた子ども

食糧の配給を受けた子ども。子どもはこの国の「未来」

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子どもたちに生きる糧を届ける、「水と食糧のための募金」にご協力ください。
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この記事を書いた人

岩間 縁支援事業部 シニア・プログラム・コーディネーター
東京外国語大学外国語学部ペルシア語専攻を卒業後、一般企業勤務。その後英国、イースト・アングリア大学大学院教育開発コースで緊急期における教育などを学び卒業。2016年9月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。ヨルダンにおけるシリア難民支援事業、アフガニスタンへの物資支援、WFP(国連世界食糧計画)の食料支援事業を経て、現在ヨルダン・イラクにおける教育支援・子どもの保護事業を担当。
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