【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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本物とニセモノ

ベトナム駐在が始まってから、約1年半。

時間が過ぎるのは、本当にあっという間だな、と感じています。
去年の春に、事業地でこんなことがありました。
夕飯を食べ終わり、これから宿泊施設に戻るという時に、飲料水を切らしていることに気が付きました。

郡中心部の小さな商店で水を買おうとした時、「ちょっと待って!それはやめた方がいいよ」とベトナム人の同僚に言われました。

「なんで?これ、ちゃんとキャップ閉まってるし、口にビニールもついてるよ?」と言うと、同僚は苦笑いしながら「よく似てるけど、ほら、ブランド名違うでしょ?」とラベルを指差して見せてくれました。

良く見てみると、それは、いつも飲んでいる安全なブランドの飲料水によく似てはいましたが、肝心の名前はそのブランド名をもじった物でした。

「え~~!!飲料水にもニセモノってあるの?!」

ベトナム国内でニセモノが多く流通しているのは知っていました。
偽ブランドバッグ、偽ブランド靴、偽キャラクターグッズ、偽コーヒー、産地偽装野菜、偽「神戸牛」、偽ガイドから偽市バス、偽托鉢僧(!)まで。
明らかにニセモノとすぐに分かるものもありますが、一見では気が付かない物も多くあります。

産地偽装や偽ブランド商品は日本でも問題になっていますが、特にベトナムのように急な経済成長を遂げている国では、なかなか検査や取締りが追い付かないのでしょう。

もちろんベトナムの消費者も問題視し、そういったものは購入しないという人も多いそうです。しかし経済的困難や無知から、安価なニセモノを買う選択しかない人も多くいます。(ちなみに、そもそもベトナムの地方には、本物のブランドの飲料水は流通していないようです。)

ニセモノを作ってまで、得たい利益ってなんなのだろう?
利益に生活がかかっている人にとっては、「倫理」や「品格」などは、「贅沢」な物なのだろうか…?それとも、「ニセモノ産業」も消費者の「本物への憧れ」というニーズに応えている(利用している?)という点では、「必要」なものなのだろうか?

「本物・ニセモノってなんだろう?」―と考えているうちに、「本物の開発支援って何だろう?」と、ふと思いました。「これが欲しい」、「こうしてほしい」というニーズは現場にたくさんあります。物質的な望みに応えるのは、資金と供給システムさえあれば比較的容易です。でも物質的な豊かさだけが、開発援助の目的ではないはずです。

事業地の子どもたち

事業地の子どもたち

しかし時として、支援者も受益者自身も、物質的な開発支援ばかりに目が行きがちです。
でもそれは、本当に地域の人たちの「ためになる」支援なのだろうか?
こちらが良かれ、と思って行っている支援を、地域の人は本当に望んでいるのだろうか?

私は、ちゃんとその「本当の望み」に耳を傾けられているのだろうか?
私は、地域住民の望む「本当の幸せ」をきちんと理解しているのだろうか?
でも、そもそも「本当の幸せって一体なんだろう?」―宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のジョバンニのような質問が頭をよぎります。

今は、その答えが分からなかったとしても、せめていつも「本物」への憧れを持ち続け、「本物」を求めていきたい。地域の人と一緒に「本物の幸せとは何なのか」を探求したい、と強く願っています。

この記事を書いた人

木戸梨紗プログラム・コーディネーター
上智大学比較文化学部卒業(専攻:社会学・文化人類学)。ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院でMSc. Reproductive & Sexual Health Research修士を取得。
2010年1月 ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2012年12月より2016年3月までベトナム、2016年4月から2018年3月までエチオピア駐在。専門領域は母子保健。
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