【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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質問のアート

支援事業のモニタリングというのは、私たちにとってはとても大事なもので、現地を訪問して、見て、観察して、感じて、現地がどう動いているかを質問の中から理解するいい機会です。質問するときは、事業のインパクトとか、事業計画と活動進捗状況の齟齬とか、パートナーとの連携の仕方などが見えるような質問をしなければならず、どう聞くのがいいのかな・・といつも試行錯誤します。

モニタリングの計画を現地スタッフと立てているところ

モニタリングの計画を現地スタッフと立てているところ

しかし、私もワールド・ビジョンのプログラム担当者として、初めて現地に行くことになった時、とても不安でした。果たして現地で何を聞いたらいいのか、どういう風に質問をしたらいいのか正直よくわからず、先輩にこっそり、「現地の人には、どんな風に質問をすればいいのでしょうか?」と聞いたほど。

その時に、「近所のおばさんと世間話をするような感じで話をすればいいのよ!」といわれ、なるほど!と思ったのが最初でした。ドキドキしながら、質問票を握って出張に行って、現地でスタッフに囲まれて声を震わせて質問していたことを思い出します。プログラム担当者は当時、一人で出張することが多く、他の人がどういう風に現地で質問をしているのか聞く機会はなかったのですが、自分なりに毎回工夫してモニタリングに行っていました。

 

それが、カンボジアでプロジェクト・マネージャーをすることになり、立場が変わりました。これまで日本事務所からモニタリングに行っていたのが、今度は現地プロジェクトの責任者として、海外事務所からモニタリングを受ける立場になったのです。私の従事していた支援事業は、5つの事務所から支援を受けていたので、モニタリングも年に複数回あり、その度に現地側の責任者として、モニタリングに同行して、支援事業の説明をしなければなりませんでした。

 

人身取引について子どもたちに啓発活動を実施(2012年撮影)

人身取引について子どもたちに啓発活動を実施(2012年撮影)

その中でも一番思い出深いのは、アメリカ・カナダ・東アジア地域事務所からのモニタリングでした。それぞれの事務所の事業統括責任者が来て一緒に現地訪問をしたのです。アメリカ、カナダはワールド・ビジョンの中でも大きな事務所で、そこの事業統括責任者というのは、雲の上の存在。アメリカ事務所の方は、元アメリカ合衆国国際開発庁の出身で、政府のグラント事業を長く手掛けてきたとか、カナダの方は、元企業のCEOだったとか、バックグラウンドを聞くだけで、身がすくみました。当時、事業が始まって2年ほどたっていたので、私もある程度説明はできるようになっていましたが、それでも、わからないことを聞かれたら困るな・・とか、ドキドキしながらその日を迎えたのです。

人身取引予防に取り組む中学校の生徒たちと池内スタッフ(2012年撮影)

人身取引予防に取り組む中学校の生徒たちと池内スタッフ(2012年撮影)

その日は、対象村に行って、ユースクラブを訪問して、パートナー団体と会って・・と盛りだくさんの予定だったのですが、パートナーの一つ(地元警察)と会った時に面白いことがありました。確か1時間ほどのセッションだったのですが、私は、支援事業がどういう風に警察と連携しているか、どんな活動を一緒にしているのか等、このインタビューの答えを知っているわけで、果たしてどのようにその結論にたどり着くのかな・・と思いながら座っていたわけです。

 

警察への質問はゆっくり始まって、初めは大きな質問から、だんだん領域が狭まって、少しずつ核心を突くような質問があって・・。気が付くと、3人の質問者は、私たちが2年かけて築いた警察との関係についての情報をほぼまんべんなく得ていて、「なるほど、警察とはこういう風に連携しているんだね・・」とにっこり笑ってインタビューは終了したのでした。その手際の良さは本当に見事なもので、何もないまっさらな空間に、質問でノミを入れるたびに、少しずつ形が出来上がっていくようで、その様子が「まるでアートだなぁ…」と感じました。一つ一つの質問は、先に投げかけた質問の答えを受けて、それを踏まえて聞いていたので、無駄のないとてもシャープなものでした。

 
コミュニケーションを生業としていらっしゃる方には、当然のことかもしれないですが、目の前で非常に手際のいい、美しい職人芸を見て「質問ってアートなんだなぁ・・」と実感した一日でした。

この記事を書いた人

池内千草支援事業部 プログラム・コーディネーター
東北大学大学院修士課程修了後、私立高等学校にて英語講師として勤務。その後タイ王国チュラロンコン大学大学院タイ研究講座を修了。タイの東北地方の農村にて調査・研究を行い、NGOと女性の織物グループの形成をジェンダーの視点から考察した。2003年から2006年までの3年間、タイの国際機関(UNODC, UNAIDS, UNESCAP)や日本のNPOなどでインターン・コンサルタント・国際スタッフとして契約ベースで勤務。帰国後、千葉の財団法人、海外職業訓練協会にて、APEC・ASEAN域内諸国を対象とした、人材育成フォーラムや技能研修などの研修事業に携わった。2008年2月ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2010年10月より2016年6月まで人身取引対策事業のためにカンボジアに駐在。日本に帰国後、支援事業部 開発事業第1課配属。2021年9月より休職(別組織より南スーダンに赴任)。日本に帰国後、2023年10月よりワールド・ビジョン・ジャパンに復職。
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