【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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耳をすませば

前回の「君の名は?」に引き続き、ブログのタイトルが映画のパクリですいません。
今回は私がなぜ耳をすますようになったのか、また耳をすますことで気づいたことを皆さんにお伝えできたらと思います。

コロナ禍でのシリア国内支援

私は2015年からヨルダンに駐在していますが、昨年の8月から新しい担当に変わりました。それまでは日本の皆さまからいただいた募金とジャパン・プラットフォームからの助成金でヨルダン国内の、シリア難民とヨルダン人の方々を対象とした教育の支援事業を監理していましたが、昨年からシリア国内にいる方々への教育と保護や、水・衛生分野の支援事業の監理を担当するようになりました

治安が安定していないシリアへの支援は、ワールド・ビジョンの様々な部門のスタッフが、周辺国からシリア国内で働いているシリア人の同僚をサポートする形で行っています。ワールド・ビジョン・ジャパンとパートナーシップを組んでいるワールド・ビジョン・インターナショナルのシリア危機対応事務所の拠点はヨルダンのアンマンにあります。私はその事務所に出向して事業を監理していますが、ヨルダン在住のスタッフだけでなくレバノンやトルコ、遠くはアルメニアなどに住むスタッフともインターネットを介して一緒に仕事をしています。日本からも私以外にワールド・ビジョン・ジャパンのスタッフが加わり、日々現場のニーズ、治安などの情報を得ながら同僚たちと財務、調達やモニタリング・評価などの部門と調整を行いながら事業を進めています。

本来、シリアの支援事業はワールド・ビジョンと共に実施する現地提携団体の担当者やレバノンにいるワールド・ビジョンのスタッフとともに2カ月半に一度ベイルートで会って細かな話し合いをしながら進めていく予定でした。しかし昨年10月に始まったレバノンの経済危機に伴うデモでレバノンへの渡航が制限され、また今年に入ってからは新型コロナウイルスの流行により、私も、またシリアにいる同僚たちもレバノンへの往来ができなくなってしまいました。

遠くにいる同僚たちと会議をするのに欠かせないのが、スカイプやズームといったインターネットを利用した通信手段です。ただ、特にシリアは通信速度が遅いため、会議は映像を使わず音声だけで行います。音声が悪くなったり途切れたりすることもよくあるので相手の言うことに神経を集中させる必要があるということはもちろんですが、相手の顔が見えない分、今相手がどのような状況にあってどのような気持ちで話をしているのか、耳をすまして声の調子だけでなく、言葉の背後にあるものにも気を配って聞くようになりました

聞こえてくる音から得る情報、情景

私はシリア事業を監理するようになる前は、シリアは戦闘で破壊された、殺伐とした風景が延々と広がっているというイメージを持っていました。

シリア北西部イドリブ県の北部にある避難民キャンプ

シリア北西部イドリブ県の北部にある避難民キャンプ

ですがシリアの、特に首都から遠く離れた場所にいる担当者と話をするようになって驚いたのは、背後でたくさんの小鳥たちのきれいなさえずりが聞こえることでした。同僚が小鳥のことをどう思っているかは知りませんが、私には鳥の声を聞くことで心が洗われ復興への希望が湧いてくるような気持ちがして、その活動現場とつないで話をするときは小鳥の声を聞くのがひそかな楽しみとなりました(もちろん、同僚の話もちゃんと聞いています)。

また、8月にはレバノンのベイルートから仕事をしている同僚たちの背後からは、まるで工事現場にいるかのような騒音が聞こえていました。これは8月4日に発生した大爆発で破壊された建物を修復する音です。ワールド・ビジョンのレバノン人の同僚たちも少なからず大爆発の影響を受けており、経済危機、新型コロナ危機に加え大爆発の影響という厳しい状況下でシリアの方々のために事業の支援をしてくれているのだということを改めて実感させられました。

事業を実施するためには、もちろん日本の同僚とも密に連絡を取り合っています。同僚は今年の2月から新型コロナウイルス感染予防のため在宅勤務を行っており、事務所にいるときには聞けなかったような音が聞こえることがあります。ミーティングがヨルダン時間の午前中、日本時間の夕方5時にかかった場合、同僚の背後から懐かしい音楽が聞こえてきます。市が防災無線を通して流す「夕焼け小焼け」の曲です。この時は真面目な仕事の話をしながら、ひそかに望郷の念に浸っています(笑)。

多摩川と夕焼け空。ヨルダンには大きな川がないので、日本の雄大な川が懐かしい

多摩川と夕焼け空。ヨルダンには大きな川がないので、日本の雄大な川が懐かしい

ミーティングに出ている本人たちにとっては当たり前すぎて特別な音と思わないかもしれませんが、違った環境にいる私にとっては背後に聞こえる音も同僚の状況を理解する重要な情報のひとつとなりました。私はシリア国内へ行って支援事業の受益者の方たちに直接お会いして話を聞くことができないので、現場から送られてくる報告書だけでなく、それ以外の情報から国内避難民の方々がどのような生活を送り、どのような問題に直面されているのか、感じることができたらと願っています。

もしも「匂い」が送れたら…

現在私が担当している事業では、国内避難民への飲料水の供給のほかに国内避難民キャンプに設置されている仮設トイレの汲み取りやごみ収集などの活動を行っています。故郷を追われ厳しい生活を強いられている国内避難民の方々が避難民キャンプで少しでも気持ちよく生活できるよう、悪臭のない環境を作ることができればと思っています。

技術が発達している昨今ですから、インターネットを利用した通信手段に「匂い」という情報が加わったら、現場の状況をもっとよく知ることができるのになぁと思います。ネットで匂いを送る技術は現在実用化に向けて開発中だという記事を読んだことがあります。

先日、こんなことがありました。
私が監理している事業ではテント生活を送っている国内避難民の方々に定期的に石鹸や洗剤、歯ブラシや歯磨き、タオル等をセットにした「衛生キット」を配布しています。シリアでアカウンタビリティ(説明責任=支援活動が適切に行われたかどうかを調査するため受益者の方々の意見を集めること)を担当している同僚が後日国内避難民キャンプを訪れたところ、受益者の方から配られた石鹸が臭いと苦情を受けたそうです。

石鹸の製造過程で何等かの理由で原料が腐敗していた、原料に問題はないが入れられた香料が変質していた、原料にも香料にも問題はないが香りが受益者の好みではなかった、等々の理由が考えられます。いただいたご意見を次回の配布に活かせるよう原因を追究したいのですが、石鹸1個のために異なる陣営が支配している地域を通って送ってもらうわけにもいきません。

配布を行った現地の提携団体のスタッフは品質に問題はなかったと言っていますし、指摘された「匂い」がどのようなものなのか、実際に感じることができない私はとてももどかしく感じました。そういった意味でも、匂いを届ける技術が早く実用化されればいいなぁと思います。

匂いを届ける技術の開発に携わっているエンジニアの皆さま、緊急支援の現場でこんなニーズがあります! 開発・実用化に向けた日々のお働きに感謝します。

ヨルダンで補習授業を受けている女の子の話に耳をすます筆者

女の子の話に耳をすます筆者(ヨルダンにて)

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WVJは厳しい環境に生きる子どもたちに支援を届けるため、11月1日~12月28日まで、3000人のチャイルド・スポンサーを募集しています。

この記事を書いた人

渡邉 裕子ヨルダン駐在 プログラム・コーディネーター
大学卒業後、一般企業に勤務。その後大学院に進学し、修了後はNGOからアフガニスタンの国連児童基金(ユニセフ)への出向、在アフガニスタン日本大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所等で勤務。2014年11月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。2015年3月からヨルダン駐在。
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