【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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シリアからの手紙 ~世界難民の日によせて~

「連絡するのが遅くなってしまって本当にごめんなさい。私はあなたたちに会ったことはないけど、あなたたちの苦しみを感じています。愛する家族、家、土地を失った悲しみを。こうしてあなたたちが難民として暮らさなければならないという現状は、許しがたいことだと思っています。

今のシリアについてお教えしましょう。戦争はすべてを焼き尽くしてしまいました。私の知っている人たちは皆この国からいなくなり、代わりに知らない人たちが入ってきました。ここでは日々自分を守ることで精いっぱいです。

シリアに平和が訪れてあなたたちが戻ってきた時には、子どもたちの世代のためにも、互いへの憎しみを忘れ、お互いの家を協力して建て合いましょう。あなたたちが無事に故郷へ戻れる日が一日も早く訪れるよう、神に祈っています」

難民旅行証明書を持つシリア人の女性

難民認定証を持つシリア人の女性

これは、国外に出た同胞を何とか励ましたいと考えていたシリア人が、不特定多数のシリア難民に宛てた手紙の一部を抜粋したものです。ヨルダンでシリア難民の支援活動を行っているサダーカという団体の代表、田村雅文さんが、シリアにいる知人からこの手紙を託されました。

私は現在、ワールド・ビジョン・ジャパンからヨルダン事務所に派遣されていて、シリア難民とヨルダン人の子どもたちを対象とした教育プロジェクトに携わっています。仕事や、また個人的なつながりから、故郷の家族に思いを寄せるシリア難民の子どもたちやその親たちと接する機会があります。一緒に話をしていると、話の流れで難民の方々でも時には冗談を言って笑うこともあります。でも故郷の家族の近況を尋ねると、とたんに表情が曇り、目に涙をためて押し黙ってしまう…、そのような光景を何度も見てきました。

越冬のためのアイテム引換券を渡される難民の女性(右)

越冬のためのアイテム引換券を受け取る難民の女性(右)

そんな中、シリア国内にとどまっているシリア人がどのような生活を送り、国外に出た家族や同胞についてどのように思っているのか、最近仕事でシリアを訪れた複数の知人を通して聞くことができました。シリアには、身体が悪くて移動が難しいため脱出をあきらめたお年寄りが多いこと、そしてそのような家族を見捨てることができずに一緒にとどまっている人たちがいること。また、知人の家族の中には難民として国外に避難した者もおり、残った遠く離れた家族の身を案じ、異国の地で幸せになれるよう祈っているそうです。

シリア国内で戦闘が続いて自分の身を守るだけでも精一杯の状態なのに、国外にいる同胞を思いやる人がいることに、私は驚きを隠せませんでした。シリアとヨルダンで、国境を隔ててはいるけれど、家族や同胞を思うシリアの人々の気持ちは同じなのだと教えられました。

シリアからヨルダンに逃れた10歳のハムザ君

シリアからヨルダンに逃れた10歳の少年

田村さんからこの手紙のコピーを手渡されたシリア難民たちの中には、驚きつつもその手紙に目を通し、感慨深げに丁寧に折りたたんで大事そうに胸ポケットにしまう人もいるのだそうです。見ず知らずのシリア人が自分たちの帰還を待っていてくれている…。祖国に帰るまであと何年待つことになるのかわからないという状況で、希望を失いかけている難民たちにとって、祖国からの手紙は大きな励みとなっていることでしょう。

私もこれからは、目の前にいる難民の人たちの背後には、祖国にとどまって彼らのことを想い続けている人びとがいるのだということを忘れないように、仕事をしていきたいと思います。

補習クラスで勉強する難民の子どもたち

補習クラスで勉強する難民の子どもたち

 

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この記事を書いた人

渡邉 裕子ヨルダン駐在 プログラム・コーディネーター
大学卒業後、一般企業に勤務。その後大学院に進学し、修了後はNGOからアフガニスタンの国連児童基金(ユニセフ)への出向、在アフガニスタン日本大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所等で勤務。2014年11月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。2015年3月からヨルダン駐在。
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